思考実験(精神分離 雌伏)
続き
彼女は自宅で、押入れの中、とくに写真に写った自分が探っているあたりを確かめてみる。
そこには、免許証の男の写真が大量に入った缶詰がひっそりしまってあった。
そのうちのいくつかは、火であぶったような形跡があったり、手で破いてあった。
次の日起きると、窓が開いており、電源の入ったパソコンの画面に次のように書いてあった。
「キミの命はボクが握っている」
画面に映り込んでいる自分の顔には、ナイフでつけた傷が残っていた。
彼女は部屋を警察の検証に明け渡し、自分は別に居を構えることを考えた。
しかし、違和感が残る。
ひとつには、窓に一切の傷がないこと。
外から鍵で開けられないタイプのロックである。
どうやって入ったのか。
もうひとつには、玄関が開いていないこと。
5階までよじ登っておいて、また外からよじ降りたのだろうか。
普通なら玄関の錠をあけて渡り廊下と階段を使って降りるだろう。
彼女は引っ越すのを止めた。
現在唯一の手がかりである免許証の男を、もう一度詳細に調べることにした。
新居の管理人の話などをまとめると、次のようになる。
彼は婚約をしていたが破棄した経歴があった。
それがアルコール依存症発症の原因を作った。
すべてつじつまの合う話であった。
元婚約者が自分であったことを除いて。
続く
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